女優の榮倉奈々さんも珍しい苗字です。
 生まれは鹿児島県肝属郡肝付町岸良。そこにまだご親戚の方がお住まいになっているそうです。
 ところで、この榮倉という苗字。大変に珍しいものです。数年前の電話帳を見ると岸良には、奈々さんのご親戚と思われる家が6軒ほど載っていますが、すべて「栄倉」で、「榮倉」の登録はありません。もともと現在、岸良に住む栄倉一族の戸籍上の表記は「榮倉」と思われますが、現在では「栄倉」を使っているのでしょう。

 榮は栄の異体字で、意義は「さかんな」「はなやかな」です。まさに奈々さんにふさわしい文字です。
 岸良の榮倉(栄倉)さんは、薩摩藩の門割(かどわり)制度に由来します。
 門割制度とは、農民を数軒から多くても20軒程度のグループに分けて支配する制度です。そのグループには地名などからとられた門名(かどな)という名前が付けられ、門の頭である名頭(みょうず)とその配下に置かれた名子(なご)がいました。門の多くは血族から始まっているので、名頭は本家、名子は分家という場合がよくみられます。この門は集落の一ヶ所にまとまって住み、定期的に領主の命令で耕作地が交換されました。これはある門が不作地を長年にわたって耕作する不公平をなくすための措置です。

 岸良の門に榮倉門がありました。榮倉という門名の由来は、自分たちの倉庫が永遠に栄えるように、という願いを込めたものでしょう。鹿児島県の門名には栄国門など、「栄(榮)」文字を使ったものがほかにもあり、薩摩人にとって「榮」は好きな文字であったことが分かります。
 奈々さんのご先祖は榮倉門に属していた農民でした。
 そして明治5年(1872)に近代最初の戸籍である壬申(じんしん)戸籍に苗字を登録するとき、榮倉門の榮倉をそのまま苗字にしたのでしょう。

 門割制度については国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで『旧鹿児島藩の門割制度』 が公開されています。また鹿児島県人のルーツについては『鹿児島県姓氏家系大辞典』が参考になります。ほかご先祖が薩摩藩士だったという家は『さつまの姓氏』をご覧になるといいでしょう。この本には薩摩藩士1050姓の系図が収められています。ただし地方に住んでいた郷士に関しては、記載漏れも多いので、あわせてご先祖が住んでいた地域の郷土誌を読むことも大切でしょう。